フレが誰か1人でもログインしているようなら、挨拶をしようと思っていたが、今日はまだ誰もいないようだ。

 とりあえず黙ったまま景色でも眺めながら歩いていく。

 1頭の真っ白い羊が、「今日は背中に乗らないの?」とでも言わんばかりに、歩くユイに擦り寄ってきた。

 ユイは羊の硬い体をポンポンと叩く。

 その手首で、からくり人形を召喚する腕輪の宝石がきらりと光った。

(そうだ、この世界で私はからくり士だったんだっけ)

「―――」

 ユイは腕輪に集中して、両手を広げると、たくさんの小さな光の粒が大地から湧き上がり地上の1つの点に集まった。

 驚いた羊がドシドシと離れていく。

「アルメェール」

 ユイが光の中心から召喚されたからくり人形に言葉を放った。

 ユイの膝までしかない小さな体のアルメェールは、カシャカシャと鎧の音をさせながらユイのそばに寄ってきた。

 おどけたように首をかしげながら、兜の中の真っ黒い空洞の瞳がユイを見上げる。

「久しぶり、アルメェール。今日はどこに行こっか?」

 真っ青な空の下、いつもと変わらずに回る風車が建つ草原の中を、ユイとオートマトンがゆっくりと歩き出す。