雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕






裏口から入り、鍵を閉めて、思葉は靴を脱がず上がり框に腰掛けた。


そのままごろりとその場に寝そべり、額に手の甲を当てる。


全身に重石のような疲れがのしかかってきた。


わずかな距離で、走ったといえるほど急いでいたわけでもないのに、マラソンをした後のようにだるい。


鼓動も速く、背中にはじっとりと汗をかいている。


変に気を張り過ぎていただろうか。



(こんなに気にしすぎていたら参っちゃうわよね。


もっと心に余裕を持って、何でも来いやって気にならないと……)



不安だらけなのでそこまで大胆にはなれないが、過剰に意識するせいで自滅するのは情けない。


永近が与えてくれた護りを信じよう。


寝転んだはずみで服の隙間から飛び出た匂い袋を握り、微かな香りをかいで、思葉は身を起こした。


ローファーを脱いだところで、玄関に永近の靴がないことに気がつく。



「ただいまー。おじいちゃん?」



やや大きな声をかけながら、家と『満刀根屋』とを仕切っている硝子戸を開ける。


だが、そこには永近も客の姿もない。


カーテンを閉めてあり、もう閉店してしまったのだと分かる。



「どうりで静かだと思った。


……出かけてるのかな?鍵は締めてあるね、よし」



たまにだが、帰宅したときに永近が留守にしていることは今までもあった。


急に依頼でも入ったのだろう、そこまで気にせずに思葉は店を出て部屋に向かう。