裏口から入り、鍵を閉めて、思葉は靴を脱がず上がり框に腰掛けた。
そのままごろりとその場に寝そべり、額に手の甲を当てる。
全身に重石のような疲れがのしかかってきた。
わずかな距離で、走ったといえるほど急いでいたわけでもないのに、マラソンをした後のようにだるい。
鼓動も速く、背中にはじっとりと汗をかいている。
変に気を張り過ぎていただろうか。
(こんなに気にしすぎていたら参っちゃうわよね。
もっと心に余裕を持って、何でも来いやって気にならないと……)
不安だらけなのでそこまで大胆にはなれないが、過剰に意識するせいで自滅するのは情けない。
永近が与えてくれた護りを信じよう。
寝転んだはずみで服の隙間から飛び出た匂い袋を握り、微かな香りをかいで、思葉は身を起こした。
ローファーを脱いだところで、玄関に永近の靴がないことに気がつく。
「ただいまー。おじいちゃん?」
やや大きな声をかけながら、家と『満刀根屋』とを仕切っている硝子戸を開ける。
だが、そこには永近も客の姿もない。
カーテンを閉めてあり、もう閉店してしまったのだと分かる。
「どうりで静かだと思った。
……出かけてるのかな?鍵は締めてあるね、よし」
たまにだが、帰宅したときに永近が留守にしていることは今までもあった。
急に依頼でも入ったのだろう、そこまで気にせずに思葉は店を出て部屋に向かう。



