思葉はじろりとそちらを睨んだ。
そこには永近に頼まれたお使いの荷物と一緒に、杜若(かきつばた)色の鞘袋にしまわれた一振りの太刀がある。
思葉からの視線を受けると、また忍び笑いが太刀から漏れた。
目を覚ました直後に聴こえた笑い声の主はどうやらこいつのようだ。
もちろん、予想はしていたが。
「……なによ」
「いいや、随分と情けない面だなあと思ってな」
くつくつと喉を鳴らす笑い声と共に、どこか陰のある低い声がした。
霧雨玖皎(きりさめ くしろ)、人と同じように心を持ち、言葉を操ることができる、平安時代に生まれた魂の宿る刀だ。
半年前、思葉は家である骨董品店でこの刀と出会い、紆余曲折を経て主となった。
持ち歩いても不自然でなければ、時々こうして外へ連れ出している。
今日も永近にお使いを頼まれて隣の県まで出かけることになり、せっかくだからと連れてきた帰りである。
だが、今の一言でその親切心も台無しだ。
この太刀はそういう性格だと分かっているが、それでも腹は立つ。
「なにが情けないよ、失礼ね。
寝起きなんだからしゃきっとした顔してなくて当然じゃない」
「威張って言うことじゃないだろう。
それに、おもしろいものを見て笑わないやつがどこにいる。
居眠りしているやつが頭をぶつけて目を覚ます、傍から見てるとなかなか愉快だぞ。
ま、べっどから落ちて混乱したときよりはつまらんが」
「あんたねぇ……」



