すっぱりとした言い方に、思葉は吹き出した。


確かに、世間的に考えればその生き方がいちばんまっとうだろう。


でも、思葉にはそんな暮らしをしている自分がまるで想像つかなかった。



「あたし、音楽系の大学に行きたいんだよねぇ」


「合唱続けるの?」


「合唱というか、声楽かな。


音楽の道で生きていきたいんだよ、あ、でも音楽の先生は考えてないよ、あたし教師には向いてないから」


「そうかなぁ、実央さんって人気の先生になれそうなのに」


「ムリムリ、あたし小学生とか中学生苦手だし、高校生相手なんてもっと嫌だから」



実央が首と手を同時に真横に振る。


本当に苦手なのだろう。


生徒に囲まれてピアノを弾いている実央が簡単に想像できたので、思葉は少し意外に思った。



「思葉ちゃんは、将来こうしたいとか何か考えてる?」


「んー……まだ分からないかなぁ。


とりあえず大学は出なさいって言われてるから進学は考えてるけど、その後はねぇ……あ、でも、満刀根屋の跡は継ぎたいかな。


多分、考古学とか民俗学とか、歴史関係に行くかも」


「じゃあ、月大(つきだい)に行くの?」



月大こと月ヶ岡(つきがおか)大学とは地元の国立大学だ。


思葉たちの通っている高校から、徒歩10分程度の距離である。


なのでこの周辺にも、学生向けの一人暮らし用のマンションが多く建っている。


時々夜中に酔っ払った学生のやかましい声が響いてくるのが少しだけ迷惑だ。