廊下に出ると、窓から差し込む西日で空気はきれいな橙色に染まっていた。


いつもより一層きれいに見えて、なぜだか怖さをおぼえる。


軽く背を丸めて胸元に手をあてたとき、今朝まであった感触がないことに気付いた。


思わず足を止めて「あ」と声を出す。



「しまった……匂い袋、ロッカーの中にしまいっぱなしだ」



4校時の体育の授業で着替えてから、首にかけなおすのをすっかり忘れていた。


普段からネックレスやブレスレットなどのアクセサリーの類を身に着ける習慣がないせいもある。


昨日の轉伏からの忠告を思い出し、思葉は一気に不安になった。


早く取りに行こうと、教室ではなくロッカールームを目指す。


急いで階段を駆け下りていく――その途中で、異様な光景を目撃した。


2階と3階の間の踊り場の隅に、うずくまっている女子生徒がいる。


4つに結んだ髪、矢田だった。


額を壁にこすりつけ、両腕はお腹を抱えるようにしている。


思葉は慌てて矢田に駆け寄ろうと走り出した。


いくら接点のないクラスメイトでも、苦しんでいるところを見て慌てない人間がどこにいるのだろうか。



「矢田さん、どうしたの!?」



階段を駆け下りながら、空いている左手を伸ばす。