雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕






ごまかすように髪を耳にかけたとき、老婆が抱えている苔色の風呂敷が目に入った。


箱を包んでいるのか、直方体になっている。


すると、そこに重なるようにして古い壷が観えた。


そしてさらに、皺の目立つ老人の両手が浮かぶ。


指先に泥が付着している。


夢の中で観ていた手とそっくりだった。


もしかしたらあの夢は、これに感化されて見たのだろうか、と思葉はぼんやりと思った。


思葉には普通の人には観えないものが観えた。


それは幽霊などの心霊の類ではなく、あらゆる『物』に対する思念や記憶である。


観えるだけでなく、聴くこともできる。


今観えた老人の手は、あの箱にしまわれた壺の記憶だろう。


思葉はそっとため息をついた。


ひょんなきっかけでうっかり物に宿る思念や記憶を観たことは何度かあったが、ここ最近その頻度が増えている気がする。


まったく意識していないのに、あの職人の手は夢の中に現れた。


なんだか、日に日にこの観える力がどんどん強くなっているようだ。


ちっとも嬉しくない。


原因は恐らく、約半年前に関わった櫛の付喪神との一件だろう。


そして当時の要因の一つが隣にいる。