全身鏡の前に立ち、首にかけた匂い袋が制服に完全に隠れるよう工夫する。


制服と同じ色の細い紐なので目立つ心配はなさそうだ。


匂いも本当に微かで、これなら他の匂いと混ざって気付かれにくそうである。


逆に匂いが弱すぎて少し不安になるけれど、永近が言うのなら大丈夫だろうと自分に言い聞かせ、思葉は鞄を肩にかけた。



「じゃ、行ってくるね」


「……ああ」



機嫌が悪くてもそれなりに返事はしてくれるし、一瞬だけ視線を投げる程度だが見送ってくれる。


なんだかんだ言って優しいのが玖皎の性分だ。



(帰ってもまだ不機嫌だったら、何かしてあげないといけないわね。


あんなに殺気出されてたらあたしの寿命が縮んじゃう)



久しぶりに手入れをしてあげようか、そんなことを考えながら、散った桜の花びらに覆われた歩道を進む。


するとまた、坂道に差し掛かるところで來世に声をかけられた。


二日連続で、約束をしていたわけではないのに登校途中に來世に会うのは初めてのような気がする。


朝起きるのが苦手で、課題が終わってないときやテスト前以外はギリギリまで布団から出ない幼馴染みにしては珍しい。



「おっす、思葉」


「おはよ、今日もあんたにしては早いわね、珍しい」