永近が表情を渋くしたので、思葉は軽く首を竦めお礼を言って階段をのぼった。


あの半分でもいいから、自分にも術を扱える力があればいいのにと思う。



(まあ、ないものを強請っても仕方ないわよね)



ため息をついてドアを開けた瞬間、思わず「うっ……」と声を出しそうになってこらえた。


部屋にはあからさまに不機嫌な表情を浮かべている玖皎がいた。


テーブルに肘をつき、眉間を険しくしてどこかを睨みつけている。



「ちょっと、まだ怒ってるの?」


「怒っていない」


「怒ってるじゃん」


「うるさい」



刺々しい言葉を返しながら、玖皎が同じような視線を向けてくる。


纏っているオーラがどす黒く観えるのは、果たして気のせいなのだろうか。


触らぬ玖皎になんとやら。


思葉はこっそりため息をついてそれ以上は聞かず、登校の準備をした。


玖皎の機嫌が悪くなったのは、昨夜護身について永近に相談したのがきっかけである。


急に護身を心配し始めた主を不思議に思った玖皎が、なぜ護身を強めたいと考えるのか尋ねてきたのだ。


それで思葉は轉伏から受けた忠告を答えた。



「ほう、轉伏のやつ、まだこの辺りの見張りをしているのか」


「おじいちゃん、轉伏のこと知ってたの?」


「昔に何度か世話になってな。


珒砂という阿毘もいたか?あの二人はよく一緒に行動を取っていたと思うが」


「うん、いたよ」



何となく察してはいたが、改めて永近が阿毘と面識があることを告げられて驚いた。