雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕






――ごちんっ!



泥まみれになっていく指先を見つめていたとき、頭に衝撃が走った。


目の前に火花が散り、視界が一瞬で真っ黒に塗りつぶされる。



「あたっ」



思わず声をあげていた。


直後、水の中から顔を出したときのように、今まで聞こえていなかった音が大量に耳に注ぎ込まれた。


人の話し声、タタン、タタン、と規則正しいリズムで刻まれる走行音。


傍から聴こえた忍び笑い。


それと同じリズムで座席から身体に伝わってくる振動、車よりも速く流れていく夕暮れの景色。


思葉は電車のボックスシートに座っていることに気づいた。


ぶつけた頭が鈍く痛む。


そこを押さえながら乗降口の上にあるモニターを見て、あと3駅で降りる駅に到着するのだと理解した。


ここに座ってからの記憶がないので、随分と長く眠っていたらしいと分かる。



(……ゆ、め?)



半分ぼーっとする頭をさすってふと視線を下げると、向かいに座る老婆と目が合った。


その隣にいる老人は腕組みをして眠っている。


「大丈夫?」


「は、はい、平気です……」



皺の多い穏やかな目を細めてそう尋ねられ、思葉は首をすくめるようにして頭を下げた。


そのまま視線を下の方へ泳がせる。


情けないところを見られた、自然と頬の辺りが熱くなってくる。