さわさわと揺れる枝を見つめていると、約半年前の出来事が脳裏に浮かんだ。


浮かんだのは十二単を纏った一人の少女。


玖皎が護衛を命じられ、その玖皎を声が聴こえずとも大切にしていた、高貴な身分でありながら山寺に閉じ込められた琴(こと)姫である。


花をつけた桜を見るたびに彼女へと想いを馳せることになりそうだ。



(散っちゃう前にまた、玖皎と一緒にお花見に行こうかな)



細い枝から飛び立つ鶯を見ながらそんなことを考えた。


声をかけられたのはそのときである。


思葉はいったん足を止めて、困ったような顔つきの幼馴染を見上げた。



「なによ、藪から棒に」


「昨日帰ってきた行哉、めちゃめちゃ不機嫌だったんだぞ。


すっげえぶすーっとしてたし、おれや父さんや母さんが何言っても反応微妙だったし、部屋に閉じこもってたし」


「……それだけ聞いてると、いつも通りにしか思えないんだけど」



行哉の家族に対する様子はあまり知らないが、仏頂面で独りでいるのは行哉の特徴である。


來世がはあっとため息をついた。



「まあ基本はそうだけどさ。でも、話しかけてくんなオーラが半端なかったんだよ。


母さんも『どうしちゃったのかしら』って心配してたし……おれと別れるまではそんなことなかっただろ?


で、行哉に何を言ったのか白状してもらおうか」


まるでサスペンスドラマの事情聴収の場面で耳にしそうなセリフを口にしながら、來世の手が思葉の頭をわしゃわしゃ撫でる。


もちろん幼馴染への嫌がらせである。


せっかくきれいにまとめた髪が台無しだ。