「新学期だし、今日くらいはちゃんとしとかないとね。たまには悪くないでしょ」


「その言い方だと、普段はまともではないように聞こえるぞ」


「違うよ、いつもは何にもしてないだけ。


実央さんみたいにおしゃれに気遣っている子にしてみれば、あたしなんかまともじゃないって思われるだろうね」



「いつの時代の女子も、見た目には拘るものなのだな。


着物の丈がどんどん短くなって、脚や腕を出すようになっているのもそれが原因なのか……」



(あ、これ昨日の話をぶり返されるかも……)



面倒くさくなりそうな雲行きを感じて、思葉は通学鞄に手鏡と櫛を放り込んだ。


ざっと部屋を見回し、忘れ物がないことを確認してドアノブに手をかける。



「じゃ、行ってくるね」


「ああ」



階段を降りる。


降りてすぐのところにある台所のテーブルでは、永近が箱を広げて品物の手入れをしていた。


昨日思葉が受け取ってきた骨董品である。


凝視していたわけではないのに、祖父の手元にある古い扇子に女性らしき白い手が重なって観えた。


すぐに目をそらし、観なかったことにしてローファーを履く。



「行ってきます」


「おう、行ってらっしゃい」



外に出ると、ふわりと仄かに甘い匂いがした。


商店街に並ぶ桜たちが、花弁と共に香りをあたりに散らしている。


薄桃色と、その向こう側にある青のコントラストが美しい。