つ、と行哉の視線が確認するように思葉の全身をなぞる。


昔から、行哉は思葉や來世の身に何かがあったとき――たとえば鉄棒から落ちたり、ブランコからひっくり返ったり、歩いている途中でつまずいたりしたとき――、こんなふうに相手の全身を見る癖がある。


相手が「大丈夫」と言っても、本当にそうなのかを自分の目で確かめるように見るのだ。


それは野心的なものではなく、静かで労わるような眼差しではあるけれど、意外と強いメッセージを含んでいる。


そのメッセージは、特に平気じゃないときに受けると強烈だ。


じいっと静かに見つめてくる双眸に耐えられなくて、空元気でいることを白状してしまう。


でも、今は何も隠していないので、その視線を浴びてもへっちゃらだった。


軽く肩を竦めて、さり気なく話題を変える。



「クラスにすっごいかわいい子がいてね、その子は電車通学なんだけどさ。


その子、冬休み明けに痴漢に遭いかけたんだってさ。


でもすぐ傍に居た大学生の人が助けてくれたおかげで、ひどい目には遭わされなかったんだって。


しかもすっごい恰好いい人だったらしくてね、しばらく電車通学の女子の間で『女子高生を護る王子様』なんて呼ばれ方されてたんだよ。


んで、その話を聞いてた來世がさあ、何て言ったと思う?


『おれも痴漢を撃退したら王子様になれるかな?』だってさ、下心見え見えで笑っちゃったよ」


「目に浮かぶな、あいつらしい」



行哉がくすりと笑う。


口元と目元をわずかに緩める笑い方だ。


これだけの変化だけれど、行哉にしては大きな表情の動きである。


なんだか嬉しく感じた、なぜかは分からないが。