雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕






けれども、返ってきた言葉は予想からかなり外れたものだった。



「……思葉?」


「へっ?」



名前を呼ばれ、反射的に顔を上げる。


ばち、と、高いところにある双眸と視線がかち合った。


少し不機嫌そうにみえる色を浮かべている黒々とした瞳は、見覚えのあるものだった。


この色が本心ではなく表層に過ぎないことを、思葉はよく知っている。


息を吸い込み、相手の名前を呼ぶ。


口にするのはいつ以来だろう。



「行哉(ゆきや)くん?」


「ああ」



相手の肩からふいっと力が抜ける。


思葉は立ち直して、高いところから自分を見下ろしてくる顔を改めて見上げた。


幼馴染を彷彿させる、鼻筋の通った顔立ち。


まだ春になったばかりなのに日焼けしているかのように浅黒い肌。


放ったらかしにしているのか、襟足が少し長い猫っ毛。


しばらく会っていない間に少し変わっていて、よく見ていなかったというのもあるがすぐに気付かなかった。


辻森行哉、來世の三つ年上の兄だ。


予想外の再会に、思葉は表情をほころばせる。