けれども、返ってきた言葉は予想からかなり外れたものだった。
「……思葉?」
「へっ?」
名前を呼ばれ、反射的に顔を上げる。
ばち、と、高いところにある双眸と視線がかち合った。
少し不機嫌そうにみえる色を浮かべている黒々とした瞳は、見覚えのあるものだった。
この色が本心ではなく表層に過ぎないことを、思葉はよく知っている。
息を吸い込み、相手の名前を呼ぶ。
口にするのはいつ以来だろう。
「行哉(ゆきや)くん?」
「ああ」
相手の肩からふいっと力が抜ける。
思葉は立ち直して、高いところから自分を見下ろしてくる顔を改めて見上げた。
幼馴染を彷彿させる、鼻筋の通った顔立ち。
まだ春になったばかりなのに日焼けしているかのように浅黒い肌。
放ったらかしにしているのか、襟足が少し長い猫っ毛。
しばらく会っていない間に少し変わっていて、よく見ていなかったというのもあるがすぐに気付かなかった。
辻森行哉、來世の三つ年上の兄だ。
予想外の再会に、思葉は表情をほころばせる。



