雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕






「大丈夫か?」



上から声が降ってくる。


思葉の身長は150センチあるかないかくらいなので、小学生や中学生、いわゆる子ども以外の人の声は頭の上から届いてくる。


声はややぶっきらぼうで、低い音色だった。


左胸の奥がひゅっと縮こまる。


知らない人、特に異性の声を聞くのは少し怖い。


声だけでなく、目を合わせたり触れたり、とにかく関わること自体が苦手だ。


相手の内面にある、自分に向けられる感情や思惑に怯えてしまう。


倒れかけたのを支えてくれるためでなかったら、この筋肉質な手も振り払っていたかもしれない。



「っす、すみません。前見てなくて……」



思葉は動きやすそうなシューズを履いた相手の足元を見て謝った。


こんな状況で相手の顔などとても見れない。


だが、普段よりもあまり怖がっていなかった気がする。


それに気づいたのはもちろんしばらく経ったあとで、このときの思葉の頭はちょっとしたパニックに陥っていた。


見知らぬ人に迷惑をかけてしまった。


それだけで心が一気に落ち着かなくなる。


足場を失くした宙ぶらりん状態だ。


相手の反応に少し緊張する、怒られなかったとしても文句の一つや二つはぶつけられるだろう。