雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕






あの夢空間で深々と刺されたうえに、傷口をえぐるようにされた激痛や感触は生々しいほどに残っている。


刺されていたあのとき、偽物の玖皎からは付喪神の気配がした。


珒砂の言うとおり、なぜ自分もあの付喪神と獣の地縛霊を同一だと思っていたのだろう。


目を閉じ、もう一度夢を思い出す。


自分が閉じ込められていたあの真っ暗な空間、そこに待ち受けていた謎の付喪神。


思葉を追いかけていた姿の見えなかった『何か』は、おそらく思葉をあの付喪神の方へとおびきよせるための罠だったのか。


それに、あの付喪神が扱っていた言葉遣いはとても古風のもの、玖皎と同じように古い時代からいる付喪神なのかもしれない。


付喪神の傍にいた、白い姿の女性も気になる。


あの人からは付喪神のような気配はまったくしなかった、おそらく思葉と同じ人間で、亡霊。



「……やえがき、さゆり」



ふと、付喪神に名前を尋ねた時、返答された名前を口に出す。


3人の視線が思葉に向けられた。



「思葉、今、何と?」


「ヤエガキサユリ……確か、そう言われたの。


あたしが自分の名前を思い出せなかったときに、それがあたしの名前だと繰り返されて……


相手が玖皎の姿をした付喪神だって分かったから聞かないようにしてたけど、でも、気を抜いてしまったらそうだと信じそうになって……」


「なるほどね、名前を見失ったものに別の人間の名前を与えて、すり替えをはかっていたんだな」


「……すり替え?」


ひとつ頷いて轉伏が続ける。



「人間の魂をさらったものが、その人間の肉体を奪い取るために用いる咒の一つさ。


異なる名前を持たせることで本来の名前を奪い、そのまま肉体の主となって魂を追い出す。


……そいつの狙いが思葉ちゃんの肉体にあるのは分かったけど、でも、それなら付喪神自身の名前を渡すはずなのに、なんで人間の名前を与えたんだろうね?」


「知るかよ、そんなの」



吐き捨てた珒砂の頭を叩いて轉伏が立ち上がった。