それから珒砂と轉伏は小声で何かやりとりをし、珒砂がまだ眠っている矢田の全身にゆっくりと手をかざしていく。
珒砂の手から出るぼんやりと白い光が彼女の身体をなぞっているように見えた。
「……だめだな。やっぱりあの獣の痕跡しか残っていないよ」
手を離した珒砂が舌打ちをして首を横に振る。
「自分が抜ける時にその当たりにいた地縛霊を捕まえて憑依させて、痕跡を塗りつぶしたのか……
なかなか尻尾を掴ませてくれないね、久しぶりに面倒そうな相手だ」
どうしたものかといった様子の轉伏だが、ふいに何かを思いついたのか思葉に向いた。
ずいっと近づいた赤い面に、思葉は思わず身を引く。
「な、なに?」
「思葉ちゃん、ちょっと身体、調べさせてね」
「は?」
思葉が聞き返すより早く、轉伏の手が思葉の腹部に触れる。
彼の手も珒砂と同じように淡く白く光り、思葉の体内を探るように動く。
突然のことに度肝を抜かれていた思葉だが、我に返った瞬間、考えるよりも手が先に動いた。
「な、な、なにすんのよど変態!!」
とっさに轉伏の顔を引っ叩こうとしたけれど、それより早く轉伏が手を放して身を引く。
「おっと、ごめんごめん、怒った?」
「怒らないわけがないでしょ!」
「へえ、怒ると女の子ってきれいに見えるっていうけど確かにその通りだね、かわいいよ」
「はあ?あんた何言ってんのよ!?」
激昂する思葉を宥めたのは珍しくも珒砂であった。
「こいつの軽口に本気になるな、皆藤思葉。
構ってもおまえが疲れるだけだぞ。
轉伏も遊んでんじゃねえ、で、どうなんだ?」
「……ないね、きれいさっぱり。
そいつが思葉ちゃんに刀を刺したのなら、そこに何らかの痕跡があると思ったけど……手がかりはなしか」
思葉はそっと腹部をなでた。



