雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕






そのまま轉伏はぶつぶつと何かを考え込む。


玖皎と珒砂は険悪な雰囲気のままでいるから、とても切りだせる雰囲気ではない。


どうしたものかと思葉は境内に視線をめぐらせ、やや離れたところに寝かされている矢田を見つけた。



「あっ、そうだ、矢田さん!」



確か矢田は、賽銭箱を巻き込んで倒れてしまっていたはずだ。


駆け寄ってみると、矢田の顔色は少し悪いが目立った外傷はなく、静かに眠っている。



「無事……よかった……」



思葉は胸をなでおろす。


それに気づいた珒砂がこちらに近づき、眠っている矢田の額に指を置いた。



「そいつは大丈夫だよ、けっこう操られていたみたいだから、それに関する記憶は消しておく。


ったく、観えないくせにこの方面のことに興味を持つ人間ほど標的になりやすい者はいねえんだよな、そこを自覚してもらいたいもんだ」


「えっ、矢田さんって観えない人なの?」


「こいつからは、おまえみたいな匂いはしねえよ」



(矢田さん、観えるって言っていたのに……まさかそれも、矢田さんを乗っ取っていたなにかがついた嘘?)



思葉はしばし考え込み、珒砂の方へ身を乗り出した。



「珒砂、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……矢田さんに馬乗りにされた時、獣みたいな臭いがしたんだ。


それに行動も犬みたいになっていたし、矢田さんに取り憑いていたものは、そういうものだったの?」


「そうだな。今はもう祓ったから何もいないけど、こいつを乗っ取っていたのはそこらへんに浮遊する犬や猫の地縛霊だった。


一体一体は弱いけど、集合体になっていたから、甘く見ていれば隙を突かれて乗っ取られる。


おまえも気をつけろよ」


「……獣の幽霊でも喋ることってできるの?」


「はあっ!?」



珒砂が素っ頓狂な声を上げて思葉を見る。


面の下にある彼の目は、きっと怪訝そうな光を浮かべていることだろう。



「何言ってんだよおまえ」


「だって喋っていたんだもん、矢田さんの中にいたものは。


獣みたいな臭いもしたけど、でもずっと喋っていたの。


……今思うと、新学期に入った時からなんだか様子がおかしかったし、もしかして」


「ちょ、ちょ、ちょっと待て」