思葉は胸をなでおろし、轉伏もやれやれといった風に肩の力を抜く。
が、ひとりだけ、まだ様子の収まらないものがいた。
「おい思葉、やつの今の発言はどういうことだ。
おまえ、やはりこいつらと接触した日に何かあったんだろう、何を隠している」
「そ、それは前話したでしょ?
それに、あたしは無事で帰ってきたんだから、もう別にいいじゃない」
「いいよ、思葉ちゃん、あいつなんか庇わなくて。
それともそいつに心配されたくないから?」
「轉伏、あんたねぇ……!」
楽しんでいる様子を全く隠さない轉伏の声に思葉は彼を睨みつける。
抜刀しかねない玖皎を制するように片腕を上げて、轉伏は面の位置を直しなが言った。
「あの日あいつが勝手に持ち場を抜け出して思葉ちゃんのところに行っちゃったんだよ。
ぼくは珒砂と急いで追いかけたんだけど、そしたらあいつ、思葉ちゃんににじり寄ってたからね、珒砂が蹴飛ばして引き剥がしてくれた。
ちょっと問題発言はしてたけど、思葉ちゃんを傷つけたわけじゃないし、心配しなくていいよ」
隠し事はいずれバレる。
轉伏の話を聞いているうちに玖皎が不機嫌になっていく様子が肌に伝わってきて、思葉は少し身を縮めた。
「閻魔王の下僕が人間を襲うとは、彼岸と此岸の番人がそれでは世も末だな」
玖皎が少し意地悪な言い方をして2人の阿毘を見る。
その挑発に真っ先に乗ったのは珒砂だった。
「なに?おれや轉伏もあのバカみたいに人間を襲うのかって疑ってんの?
あれはただ環玄が暴走しただけだ、一緒にすんじゃねえよ」
「それなら貴様らも暴走したら人間を襲うと暗に言っていることになるじゃないか」
「おれたちはあいつとは違って、仮に暴走したとしても人間は襲わない」
「はっ、どうだか」
「あんたなぁ……っ!」
「はいはい、ぼくたちの仕事に文句つけたいのなら解決してからにしてね」
2回手を叩いて轉伏が玖皎と珒砂をなだめる。
それから、ふ、と彼のまとう空気の色が変わったのが仮面越しに伝わってきた。
「……でも、それが気になるんだよ。
ぼくたちは元々は人界に害のある妖魔の類、それを閻魔王の咒によって封じ込められて、こうやって仕事をしている。
閻魔王の呪詛は強くて、そう簡単には外れないし、そのおかげでぼくたちは理性を保っている。
環玄は、うん、元が歴代にも類を見ないほどの悪食だからっていうのもあるんだけど、でも、あいつだって『食ってみたい』とかはよくぼやくけど、本当に人間を襲おうとしたことはなかったんだ。
それなのに、あの日は勝手に持ち場から離れて思葉ちゃんを襲おうとしていた……それが引っ掛かる。
ここのところ、この区画一帯で妙に彼岸の奴らが姿を見せることが多いし……何があるんだ……」



