もう1度飛んできた蹴りを片腕で防いだ環玄が、ブツブツ文句を言いながら霊骸の残りに向き直る。
すると、思葉たちの方からは見えなくなった顔の部分から、何か青白いものがぶわりと広がった。
それは散らばっていた残りの肉片をすべて包み込み、またすぐに環玄の顔へ戻っていく。
瞬く間に、血でぐっしょり汚れていた地面や石畳は元のきれいな状態になっていた。
ついさっきまでの凄惨な痕跡はどこにもない。
「んー……」
環玄が腹をさすりながら立ち上がった。
「……やっぱ食った気しねぇな……腹減ってきたぜ」
「お前の腹の具合はどうでもいいから、さっさと面つけて持ち場へ行け。
またそこら辺の人間襲ったりして、陽曦の手を煩わせんなよ」
「だーいじょうぶだってー。
確かに腹は減ってるけど、おれ、そこまで見境ないわけじゃねえもん。
前みたいに、うまそうな人間がいなければ大丈夫だぜ」
(なんか……嫌な予感がする……)
思葉の頭にちらっと過ぎったそれはすぐに的中した。
こちらに向いた環玄が、ふと思葉に気付いた様子が面をつけていても分かった。
「あー!」
環玄が思葉を指差す。
数日前あの阿毘に食われかけたことが脳裏にちらついて、思葉はひゃっと首をすくめた。
「おまえ、こないだのうまそうな人間!皆藤思葉!」
「は?おい貴様、今何といった」
玖皎がドスの効いた低い声を発し、環玄を睨みつけてちゃき、と鯉口を切る。
何か言いかけた環玄だが、その横っ面を珒砂に殴り飛ばされたせいで言えなかった。
それから少し上を向いて怒鳴る。
「陽曦!そっちからこいつ回収しろ、早く!」
『はっ、はいいっ!』
震えた少年の声がどこかから聞こえたと思うと、次の瞬間、環玄の姿は掻き消えていた。
珒砂が大きなため息をつき、舌打ちをしてそっぽを向く。
嵐が過ぎ去った、そんな感じがした。



