「開き直るなバカ、今轉伏が言っただろ、名前にはその魂の居場所を確保する役割がある。
おまえはあの精神世界で名前を失いかけて、帰り道をなくすところだった。
名前を思い出せないのは戻れなくなるのと同義、それは分かるな?」
まくし立てる勢いの説明に思葉は頷くのが精一杯だった。
珒砂は指を立ててさらに言葉を続けていく。
「おまえがおまえ自身の名前を忘れる、思い出せなくなる、それだけでも肉体との繋がりはほとんど喪失する。
でも、この妖刀の真名を覚えていれば、それが新たな繋がりになるんだ。
普段から使っている仮の名じゃない、妖刀の魂に深く刻まれている真名だからこそだ」
「妖怪たちの真名にはこれにもまた色々な働きがあるんだけどね。
一番の役割は自我を保つこと、要するに己を失わずにいることなんだよ。
妖怪は自我を失えば途端に自分のあるべき場所を喪失してしまう。
思葉ちゃんはその真名の力のおかげでここに帰ってくることができたんだ」
つまり、と、思葉は唇を丸めて整理する。
『皆藤思葉』この名前を思い出せなくなっていた時点で、思葉の魂は肉体からかなり乖離していた。
あのまま名前を思い出せず意識を手放したら、思葉の魂は戻ることなく消滅していただろう。
けれども、思葉は玖皎の真名を覚えていた。
真名は玖皎の命綱であり、それを持つ玖皎は思葉の戻るべき場所と言っても過言ではない。
だからあの名前を叫んだ瞬間、思葉の魂と玖皎――つまり思葉の肉体に繋がりが生まれ、こうして常闇の空間から戻ってくることができたのだ。



