「玖皎……」
半ば呆然としながら名前を呼ぶと、言い合いをやめた玖皎たちがそろってこちらを見た。
玖皎が膝を寄せて肩に触れる。
「大丈夫か、思葉」
思葉。
ことは。
名前が鼓膜を震わせ、そこから身体全体になじんでいく。
「玖皎……あたし、思葉だよね?」
「は?」
「あたしの名前は……思葉で、いいんだよね?」
玖皎は不安で真っ青になっている思葉の肩を優しくなでた。
それから主の頬に手を添え、言い聞かせるように口を動かす。
「忘れるな、お前の名前は皆藤思葉だ、それ以外の何者でもない。
お前は皆藤思葉だ」
「思葉……思葉……」
「そうだ、それがお前をお前たらしめる名だ」
力強く言われて、思葉はようやく心の底から安堵することができた。
身体から力が抜けて、へなへなと倒れそうになった思葉を玖皎が慌てて支える。
様子を見ていた轉伏が小さく息をついた。
「その分だと、妖刀が介入したのは間一髪だったみたいだね。
まったく、今までいろんな人間を見てきたけど、ここまで無防備な無鉄砲は初めて見たよ、なんかすごいや」
「……そんなに、危なかったの?」
「自覚ないの?」
「ううん、ありすぎるけど、まだよく分かっていないというか……」
半ば呆然としている思葉を見て、轉伏がくすりと笑う気配がする。
彼の隣まで移動した珒砂が轉伏の頭を一発殴って、思葉の方を向いた。
「お前、危うくおれたちの仕事を増やすところだったんだぞ。
今も同じようなもんだが、おれは死んだ魂を運ぶ仕事は嫌いなんだよ」
「珒砂、それじゃあ言葉が足りなすぎて説明になってないよ。
あのね、今思葉ちゃんの身体から、思葉ちゃんの魂が切り離されそうになってたんだよ。
いくら閻魔大王から力を分け与えられている阿毘でも、完全に切り離された魂をもう一度身体に入れ直すのは難しいんだ。
つまりあと少しで死ぬところだったの」



