「まさかおまえ、気づいていなかったのか?」
「は?何に」
「あの男、おまえの臀部を触ろうとしてたんだぞ」
「……へ?」
思わぬ言葉に一瞬だけ頭が真っ白になる。
主人の反応を見て、玖皎は呆れたようにため息をついた。
「本当に気づいていなかったとはな……。
あの男、おまえがあそこに立った途端、わざわざ椅子から離れておまえの後ろに来たんだ。
それで怪しいと思って警戒していたらあのざまだ。
あれくらいやっても当然だ、むしろ足りん。
ああ、いっそあのまま肩を外してやればよかったか、腕を折り砕いてやってもよかったなあ、惜しいことをした……」
などと恐ろしいことを口にし始める。
要するに、玖皎は思葉を痴漢から護ってくれたのであった。
それは嬉しいが、もっと他にやり方があったのではないだろうか。
自業自得とはいえ、完全に変人と認識されて車両に残された男が気の毒に思えてしまった。
「ありがと、でも次は大騒ぎにならないようにしてね」



