教師たちの声におされて慌しく動く生徒たちに混ざって、思葉と松山も校門をくぐった。


そこでちょうど完全下校の時刻になり、まだ門を目指して走ってくる生徒たちが生活指導の教師に小言をもらっているのが見えた。


1ヶ月のうちに下校時刻を3回守れなかったら、その人の所属している部活にペナルティが与えられるのだが、帰宅部である思葉には関係のない話だった。



「また詳しいことは夜にでもメールで相談しましょう。


皆藤さん、連絡先を教えてもらえないかしら?」


「うん、いいよ」



通行の邪魔にならない道端で赤外線通信をする。


久しぶりに、思葉の少ない電話帳に新しい名前が追加された。


クラス替えをしてもつるんでいる面子に変化がないせいである。



「これから塾に行くから、メールするのはその後でもいいかしら」


「大丈夫だよ、あたし、けっこう宵っ張りだもん。


朝寝坊は滅多にしないけどね」



思葉がおどけて言うと、松山が目を細めて笑った。


生徒の波が収まったところで、一台の黒い車が2人のすぐ近くで止まった。


外装だけで、とても高い車だと思葉は感じた。



「松山さんのお家って、ひょっとして、お金持ちなの……?」


「近くの家よりは大きいと思うわ、敷地も建物も。


それじゃあ、また明日ね」



なんともない風にさらりと言って、松山は自動でドアの開いた後部座席に乗りこんだ。


運転席にいる人は、身内の誰かではないらしい。


その人と目が合い軽くお辞儀をされ、思葉も慌てて会釈した。



「松山さんって、本当にお嬢さまだったんだ……」



静かなエンジン音で走り始めた車を見送ってから、思葉はぽつりと呟いた。