言いさして松山は一房垂れた髪を耳にかけ、いくらかためらう素振りを見せた。



「あの人はオカルト研究部の中でもかなりの変わり者なんだけど、降霊術がどれほどリスクの高いものなのかをいちばんよく知っているのよ。


だから自分で術を考えたり、それを部員を巻き込んで実行したりするタイプではなかったはずなの。


不参加だった理由は、実はそちらの方が大きいのよ。


なんだか唐津先輩がまるで人が変わったように感じられて、少し不気味で怖く思えたから」


「……唐津先輩に、何かあったの?」



思葉は松山のほうへ椅子を寄せる。


話し手が話しやすくなる質問を投げかけるのも聞き役の仕事だ。


軽く俯いていた松山が思葉を見て微笑む。


それはとても力のない表情だった。



「わたしも唐津先輩を注意深く観察し始めたのが冬休み前からだから自信を持っては言えないんだけど……


多分、唐津先輩が先輩の地元のアンティークショップで鏡を購入してから、それから術についてより詳しく調べ始めていたと思う」


「鏡?」


「そう、かなり年季の入った女物のね」



アンティークショップで購入した古い鏡。


それを聞いて、思葉はなぜ松山が相談役に話したこともない自分を選んだのか分かった気がした。



「その鏡は降霊術を実行したときにも使ったそうなの。


参加した人たちも、鏡に執着しているように見えるし、もしかしたら」



するとそこで、放送委員による下校を促す放送が流れた。


話にのめりこんでいた二人は勢い良くスピーカーを見上げる。


しっとりとしたクラシック音楽をBGMに、緊張気味の声で決まり文句が告げられる。


いつの間にか思葉と一緒に前かがみになっていた松山が背中を伸ばして長く息を吐いた。