思葉はパチパチ瞬きを繰り返し、弁当箱を膝に置いた。
聞き間違いでなければ今、実央から『オカ研』という言葉が出ていた気がする。
「え……実央さん」
「なぁに?あっ、思葉ちゃんもチョコ食べる?」
「あ、ありがとう、でもそうじゃなくて。
……松山さんって、オカルト研究部に所属しているの?」
「そうだよ、知らなかった?」
名前すら知らなかったのだ、そんなことを知っているはずがない。
もらったチョコをあっという間に食べ終えた來世が頭の後ろで両腕を組む。
「松山に全然カレシとかできないのって、やっぱその辺が絡んでるよなー。
いくら美女でも、趣味嗜好がアレじゃなぁ」
「まあ気持ちは分からなくもないわね。
もしあたしが男だったら、松山さんを恋人候補にはしないと思う。
オカルトに対して偏見を持っているわけじゃないけど、そういうの苦手なんだよねー。
ちょっと楽しむ程度ならいいけど、ここのオカ研ってガチ勢多いでしょ?」
「あーそれは分かるかもしれねえ。
同じ調子で盛り上がれる自信ないや」
「もし三木さんがそういう趣味を隠し持ってたとしたらどうする?」
「え?えーっとそれは、う、うーん、むむむ……まぁ三木さんならかわいいかもな」
「ほんっと、あんたって一途なのかチャラいのかよく分かんないわ」
その後も來世と実央はあれこれ言い合っていたが、思葉の頭にはほとんど入っていなかった。
松山がオカルト研究部部員であると知って、嫌でも矢田の姿が浮んだのだ。
昨日、放課後に矢田と会ったことを思い出すと首筋が寒くなる。
今少しだけ話した感覚では、松山は矢田のようにおかしくはなっていなかった。
でも、それだけで安心はできない。
(昨日みたいに、妙なことにならなければいいんだけど……)
思葉は両手でスカートを握りしめる。
矢田のあの目を思い出したとき、左手の傷が微かにうずいたような気がした。



