「ぎゃっ!?」
直後、男の野太い短い悲鳴がすぐ後ろであがる。
乗客がざわめき、思葉も声は出さなかったが驚いて肩を跳ねさせた。
何事かと振り向いて絶句する。
そこには仕事帰りだろうスーツ姿のサラリーマンが、片腕を背中の方へ引っ張られている恰好で座り込んでいた。
かなり強い力で捻りあげられているのだろう、痛そうに顔をゆがめている。
そして男の腕と肩を掴まえているのは、群青色の水干を纏った、月白色の髪をもつ長身の青年だった。
思葉はさっと顔から血の気が引くのを感じた。
(ちょっと、言った傍から何やってんのよ玖皎ぉ!?)
叫びたくなるのをぐっとこらえる。
そう、現代と時代感覚の異なる風貌のこの青年は人間ではない。
あれは人型となった玖皎だ。
その姿は声と同様に普通の人たちの目には観えない。
だからサラリーマンから少し距離を取っている乗客たちには、彼が一人で不自然な体勢になり、勝手に苦しんでいるように映っているのだ。
「いってえ!なっ、何だこれ、痛っ!?」
もちろん、締め上げられている男にだって視認できていない。
困惑して叫ぶ彼に、乗客たちの冷たい眼差しが注がれる。



