雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕






「ぎゃっ!?」



直後、男の野太い短い悲鳴がすぐ後ろであがる。


乗客がざわめき、思葉も声は出さなかったが驚いて肩を跳ねさせた。


何事かと振り向いて絶句する。


そこには仕事帰りだろうスーツ姿のサラリーマンが、片腕を背中の方へ引っ張られている恰好で座り込んでいた。


かなり強い力で捻りあげられているのだろう、痛そうに顔をゆがめている。


そして男の腕と肩を掴まえているのは、群青色の水干を纏った、月白色の髪をもつ長身の青年だった。


思葉はさっと顔から血の気が引くのを感じた。



(ちょっと、言った傍から何やってんのよ玖皎ぉ!?)



叫びたくなるのをぐっとこらえる。


そう、現代と時代感覚の異なる風貌のこの青年は人間ではない。


あれは人型となった玖皎だ。


その姿は声と同様に普通の人たちの目には観えない。


だからサラリーマンから少し距離を取っている乗客たちには、彼が一人で不自然な体勢になり、勝手に苦しんでいるように映っているのだ。



「いってえ!なっ、何だこれ、痛っ!?」



もちろん、締め上げられている男にだって視認できていない。


困惑して叫ぶ彼に、乗客たちの冷たい眼差しが注がれる。