思葉の仕草で心情が分かったのか、相手は目を細めてくすくす笑った。


顔のパーツ一つ一つの完成度が高いからか、それだけの表情の変化でも蕾がほころんだような優美さを感じさせる。


男子生徒の多くが一目ぼれしそうだ、來世あたりはころっとやられるだろう。



「あなたが皆藤思葉さんね」


「そう、だけど……あの、あなたは?」


「急に呼び出してごめんなさい。


こうして面と向かってあなたとおしゃべりするのは初めてよね。


わたしは1組の松山麗奈(れいな)よ、どうぞよろしく」


「あ、うん……それで用って、何?」



さっきから周囲の視線をちらちらと感じる。


人目を集めそうな女子と、学年どころかクラス内でもほとんど目立たない女子が話しているのだ。


おもしろがって見てくるのも無理はない。


思葉は逃げたくてたまらないのだが、松山は気にしていない様子だった。


こんな風に見られ慣れているのだろう。



「皆藤さん、今日の放課後は空いているかしら?」


「え?えっと、図書委員の仕事があって……」


「それって完全下校の20分前には必ず終わるわよね?


その後ならどうかしら?」


「多分大丈夫だと思うけど……」


「そう、なら良かった、実は皆藤さんにちょっと相談したいことがあるのよ。


じゃあ約束、また放課後にね。


仕事が終わる頃に図書館へ行くから、帰らずに待っていてね」



それだけ言うと、松山はきびきびとした足取りで自分の教室へと戻っていく。


何か言う暇も、それを引き止める間もなかった。


かといって棒立ちしているわけにもいかず、何だか一方的に負けたような気分になって、思葉は席に戻る。