握られた指が、手のひらがじわりと温かい。


それを感じるだけで安堵する。


しかし、いつまでたってもこの手は思葉を引き上げてはくれなかった。


繋いだだけ、それだけだ。


あれ、と首をかしげたとき、思葉はどこかを歩いていた。


しがみついていた木はどこにもなく、足が地面を踏みしめる感触がある。


手は今も繋いだままでいたが、それは行哉よりも白く男らしく骨ばった手。


誰のかは分からない。


誰かも分からない人に腕を引かれて思葉は歩いている。


夜だろうか、わずかな光しかない暗い道だった。


自分の手を引いている誰かの姿も、周りの景色も見定められないほどに暗い。


けれどもちっとも怖くない。


むしろ嬉しかった。


弾む胸が少し苦しいけれど、それさえも嬉しく思う。


幸せだ。


手にある仄かな熱が思葉の身も心も浮き立たせる。


気が付くと思葉の身体は大人びたものになっていて、レトロなデザインのワンピースを着こんでいた。


見覚えのない服だ、当然思葉のものではない。


戸惑いが生じる。



(なに、この服……。あたし、どうしてこんな格好を……)



考えても分からない、得体の知れぬ不安にいやな汗がにじむ。


なのに思葉の足は止まらない。


歩き進めるごとに、喜びを感じる心は満たされていく。


頭と心、そして身体はバラバラになっていた。



(なんで?どうして?)



思葉は胸元に手をやった。


うるさいぐらいに鳴っている鼓動は、喜びからか、あるいは不安からか。



(あたし、どうしちゃったの?


この人は誰?どこに向かっているの?


なんで、こんなにうれしく思っているの?


誰なのかまったく分からないのに、どこへ連れて行かれているのかも分からないのに……)