思葉はボックスシートの間を通ってドア付近に向かい、手すりに掴まって息をついた。
こういう狭い空間に多数の人と詰め込まれる状態は好きではない。
そのためにボックスシートに座っていたのだが、玖皎の意地悪な笑い声に反応してしまったせいで離れざるを得なくなった。
駅に停車する。
思葉が向いているのとは反対側のドアが開き、降りた数よりも多い客が乗り込んでくる。
元々狭かった乗客同士の隙間がさらに減り、ちょっとしたすし詰め状態になった。
あと1駅、5分ほどの辛抱だ、思葉はもう一度ため息をつく。
ドアの窓から車両内に視線を向けると、乗客のほとんどがスマートフォンやウォークマンに目を落としていた。
本を読んだり新聞紙を広げたり、書類を睨んだりしている人もいる。
思葉のように何もしないで揺られている人の方が少ないのではないだろうか。
まるで執着しているように見える。
この風景が、人ごみの息苦しさをさらに強めているみたいに感じられて思葉は苦手だった。
どうして人は、何かに寄りかかっていなければ安心できないのだろう。
手のひらの中で簡単に多数の情報を集められる機械を見つめている人たちが視界に入るたびに、何となく切なくなる。
そんなバーチャルな世界の何が面白いのか。
活字と向き合っている方がずっとましだ。
また重たい息の塊を吐き出したとき、す、とうなじの辺りにいやな空気を感じた。



