思葉は半年前まで、永近には普通の人には分からないものを『感じられる』程度の力しかないのだと思い込んでいた。


本人からそれが嘘であると種明かしをされて以来、玖皎は永近の力に対してかなり懐疑的になっている。


プラスの方面で疑っているから、どのような心境で捉えればよいか微妙なところだ。



「あの歳でこれだけの力を使えるなら、青年の頃はもしかしたら肩を並べられるくらいだったかもしれんな。


つくづく、あいつが味方でいてくれて助かったと思う」


「それには同感。あたし、おじいちゃんには絶対に頭が上がらないよ」



思葉は軽く肩を竦め、水筒を空にする。


嚥下した甘茶が食道を通り、お腹のあたりで渦巻いているような不思議な感覚をおぼえた。


思葉の身体に残っているよくないものを、徹底的に流そうと働いているのだろうか。


単なるプラシーボ効果かもしれないが、なんだか左手の調子が良くなった気がしてくる。




――……ぁ………て……




(ん?)



左手を握ったり開いたりしていると、微かなノイズ音のようなものが聴こえた。


手を止めて耳をそばたててみるが、何も聴こえない。


車のエンジン音や通りを行き交う人達の音、普段から耳にしている音しかそこにはなかった。



「どうした、思葉?」



目ざとく思葉の様子に気づいた玖皎が尋ねてくる。


思葉は立ち上がり、何でもないよと言う代わりに左手をひらりと振ってみせた。