「永近」
玖皎が片膝を立て、そこに肘をついて永近を見上げる。
「その匂い袋を外した途端、傷が強烈に痛み始めたらしい。
だが、どうも傷を受けたときの話を聞く限りでは、咒が発動するのに痛みが引き起こされるのはおかしい気がするんだ。
無作為でありながらも相手を確実に乗っ取るためには、そいつに気づかれないでいるのが一番だからな。
かなり不自然だと思うが、おまえはどう見る?」
言われてみれば確かに、と思葉は考えた。
あれだけの痛みが起これば、どんなに我慢強い人も鈍い人も気付かないわけがない。
そしてその人に抵抗する力があったら、咒を解かれる可能性だってある。
「ああ、それはだな、わしの仕込みがうまく働いたということだ」
「は?」
永近がにやりと笑う。
なんだか時代劇でお馴染みの
「お主も悪よのう」
「いえいえお代官さまこそ」
というやり取りをしつつ盃をあおるシーンがぴったりと当てはまりそうな笑みだった。
人の目には映らないものを見つめ、酸いも甘いも噛み分けてきた永近は時々、ふと老獪な顔をみせる。
すると満刀根永近という人間の底知れない深さを感じて、思葉はこの人が身内であり味方で良かったとこっそり安心するのだった。
敵対するととても恐ろしいが、味方でこれほど頼もしい存在はいない。
「これじゃよ」
永近は口を開けっ放しにしている思葉の鞄に手を入れ、取り出した藍色の水筒を玖皎に渡した。
まだ中身が入っており、ちゃぽんと水が転がる音がする。



