「あんたが文句を言いたくなるようなことを言ってきたせいでしょ。
それに、外で人が多いところにいるときは話しかけない約束だったじゃない」
「おれは話しかけていないぞ、笑っただけだ。
それにおまえが勝手に反応してきたんじゃないか」
まったく反省していない、というか、自分が悪いとは欠片も思っていない様子だ。
確かに先に声を出したのは思葉の方だが、そうしたくなるような反応をしてきた彼にも十分非はある。
思葉はため息をつきながら柄のあたりを叩いた。
いて、という大して痛がっていない声が返ってくる。
「とにかく、外にいるときは迂闊に声を出さないでよね、笑うのも変に驚くのもなしだよ。
守ってくれないと、もう絶対にお出かけするときに連れて行ってあげないからね」
「分かった分かった、次からは気を付ける」
(本当かなあ……)
少しも信用できないが、このまま連結部に居続けるのはあまりよくない。
思葉はもう一度柄を叩き、隣の車両へと移った。
さっきまでいた車両と同じく客は多く、シートはすべて埋まっている。
立ち乗り客もそれなりに居た。
残り2駅くらいなら、この荷物の量で立ち乗りでも平気だろう。



