枕を投げ返される。
それを抱えてベッドに腰を下ろし、思葉は首を傾げた。
玖皎が頷いて説明する。
「不意打ちではあるが、それでは躱される可能性もあるだろう?
特定の誰かを狙っての咒なら、もっと確実で、簡単には外れない手法を取るはずだ。
ま、おれにすんなり喰われちまうものは咒とは呼べんな。
この妖力の質では、これが使える精一杯の咒だったのかもしれんが」
「……そこまで分かるの?」
「持ち主の力量をはかる程度ならな、さすがにこれを遡って相手を特定するのは出来んぞ。
この手の咒は一方通行だからな」
玖皎の赤い舌先が己の唇をなぞる。
それが何だか獰猛な獣を彷彿させるようで、改めて彼が人とは異なる存在なのだと思った。
「しかし、そのくらすめいととやらは気になるな。
おまえの手を傷つけた光は、その者から発せられたのか?」
「分かんない、いきなりだったし、一瞬だったからよく見てないし……。
ねえ、玖皎。他の人たちの話だとその子ね、春休み前と今とじゃ様子が違うみたいなの。
妖怪の影響を強く受けて、そのせいで性格が変わってしまうことってある?」
「うーん……よくあることではないが、そう珍しい話でもないな。
人間は外からの影響を受けやすい生物だからな、知らず知らずのうちに洗脳されている場合もある。
逆に、それだけ感化されやすいのに辛うじてでも自我を失わないでいるおまえの方が珍しいとおれは思うぞ」
「へ、へえ……」



