「そ、それはまぁ、そうかもしれないけどさ……」
見ると左手のひらの肌はきれいに塞がっていて、薄桃色の線が先程までそこに傷があったことを示している。
玖皎は妖怪であるし、神の末席と肩を並べるだけの通力を持っているから、妖力ごと術を吸い出すだけでなく治すことができたのだろう。
だが、理解できても納得がいかない。
素直に感謝することができない。
頭と腹の奥とで渦巻く苛立ちを仏頂面で表に出している思葉を見て、玖皎は前髪をかきあげてため息をついた。
彼も彼で、思葉の反応の意味が分からないらしい。
「おまえだって、小さな傷を負えば舐めるだろう、それと同じではないか。
何をそんなに恥ずかしがっている?」
「はっ、恥ずかしいわけじゃ」
「そうか?おれには羞恥で顔を赤くしているように見えるが。
まるで好いた男と初めて枕を交わす生娘のようだぞ」
「んなっ……!」
あっさりと発せられた言葉に絶句した。
ますます顔が熱くなっていく。
すると、玖皎が怪訝そうな表情を意地悪なものへと変えた。
目に悪戯を思いついたような、玩具を見つけたような光が宿る。
「ははぁん、分かったぞ。
思葉、さてはおまえ、まだ男を迎えたことがないのだな?
まだ誰とも閨を共にしておらんのだろう。
ふうん、そうかそうか、それであそこまで慌てておったのか、なるほど合点がいった。
いやいや、それは悪いことをしたな」



