(な、によ、これ……)
「おまえ、一体どこでこの傷を……いや、それより」
玖皎は尋ねかけたが舌打ちをし、何か探すように部屋を見回す。
一旦床に視線を落として数秒黙り込み、もう一度音高く舌を鳴らして思葉をちらっと見た。
諦めたような、四の五の言っていられないというような、そんな眼差しである。
「場をつくっている暇はないな……。
いいか思葉、痛むかもしれんがしばらく我慢していろよ」
何を、と尋ねられなかった。
疑問を感じる前に、玖皎が傷口へ顔を寄せるのを目の当たりにして、思葉の思考回路は停止する。
そして、鈍痛の中に柔らかい感触をおぼえて、形になっていない疑問や考えはすべて吹き飛んだのだった。
「な、ちょっ、えっ!?」
玖皎が傷口に唇を寄せ、そこに真っ赤な舌を這わせている。
触れられてもちろん痛かったが、性急な展開について行けずそれどころではない。
身体の奥に火が灯り、一気に耳まで熱くなるのを感じた。
「くっ、玖皎っ!?ちょ、待って……!」
「おとなしくしていろ」
慌てた思葉の頼みはばっさりと却下される。
決して乱暴ではないがそれでいて有無を言わさぬ語調に、思葉はう、と息を詰まらす。
玖皎は顔に思葉の手のひらを押し付けるようにして傷に吸い付いている。
ざらついた舌に撫でられ背筋が震えたが、それは恐怖に慄いたときとは大分感覚が異なった。
思葉の知らない感覚だった。



