雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕






さっきまではこの痛みのせいで何も考えられなくなっていたが、今は玖皎の言葉を聞いて理解するだけの余裕を取り戻している。


玖皎は思葉を抱え直すと、彼女の右手ごと左手首に触れた。


壊れやすいものを撫でるような優しい手つきだったが、やはり左手には刃と化して伝わる。


落ち着いていた呼吸がまた跳ね上がった。



「つっ……」


「すまん、痛んだか。


だが具合を見せてもらわねば話にならん、腕をこちらに伸ばしてくれ、あぁゆっくりでいいぞ」



思葉は右手を外して胸にあて、左手をこれ以上刺激しないようにそろりそろりと伸ばす。


自分の方へ引き寄せた左手のひらを見て、玖皎が思いきり顔をしかめた。


思葉も涙をにじませながら自分の手の状態を確認する。


あまりの激しい痛みに涙を流して苦しむしかなく、今の今までその部分を見ていなかったのだ。


玖皎と同じように表情を歪める。


左手のひらを横切り、ぱっくりと口を開く傷があった。


それは学校でわずかな間だけ認めた、あの赤い線に沿った傷だとすぐに悟る。


しかし血は一滴も流れておらず、代わりに赤と白と濃紺を、見るだけで不快にさせる塩梅に混ぜ合わせた、そのうえわずかな光を孕んだ不気味な靄が漏れ出していた。


光は思葉の鼓動に合わせて強まったり弱まったりを繰り返し、痛みの波もそれに同調している。


想定外の光景に戸惑うしかなかった。