さっきまではこの痛みのせいで何も考えられなくなっていたが、今は玖皎の言葉を聞いて理解するだけの余裕を取り戻している。
玖皎は思葉を抱え直すと、彼女の右手ごと左手首に触れた。
壊れやすいものを撫でるような優しい手つきだったが、やはり左手には刃と化して伝わる。
落ち着いていた呼吸がまた跳ね上がった。
「つっ……」
「すまん、痛んだか。
だが具合を見せてもらわねば話にならん、腕をこちらに伸ばしてくれ、あぁゆっくりでいいぞ」
思葉は右手を外して胸にあて、左手をこれ以上刺激しないようにそろりそろりと伸ばす。
自分の方へ引き寄せた左手のひらを見て、玖皎が思いきり顔をしかめた。
思葉も涙をにじませながら自分の手の状態を確認する。
あまりの激しい痛みに涙を流して苦しむしかなく、今の今までその部分を見ていなかったのだ。
玖皎と同じように表情を歪める。
左手のひらを横切り、ぱっくりと口を開く傷があった。
それは学校でわずかな間だけ認めた、あの赤い線に沿った傷だとすぐに悟る。
しかし血は一滴も流れておらず、代わりに赤と白と濃紺を、見るだけで不快にさせる塩梅に混ぜ合わせた、そのうえわずかな光を孕んだ不気味な靄が漏れ出していた。
光は思葉の鼓動に合わせて強まったり弱まったりを繰り返し、痛みの波もそれに同調している。
想定外の光景に戸惑うしかなかった。



