「いつまで引きずっているの」


友達は私を叱る。



「どうしてあいつを忘れないの?


あんなサイテーなやつ」



そうだよね。


私は相槌を打つ。



私のこと好きじゃないのに、私と付き合っていたひと。


いつも私と一緒にいてもつまらなさそうだったひと。


冷めた目。


繋がれなかった手。



だけど。



「忘れられるなら、とっくに忘れてるよ」



忘れたくても、忘れられない。



忘れたらきっと、楽になれる。


曇天のようなこの気持ちも、きっと晴れ渡る。


虹がかかるかもしれないね。



だけど。



あなたを忘れようと、

あなたはひどいひとだったと、

そう思う度に記憶がよみがえる。


よみがえる記憶の中のあなたは優しい笑顔で私の名前を呼ぶの。


その度にこの胸はぎゅっと締め付けられて、


余計忘れられないんだ。



黙りこくる私に、友達は溜息を吐く。


「メールアドレスは消したんでしょうね?」


怖い顔をして、私に尋ねる。


首を横に振った私を見て、友達は呆れた。


「まずはそこからね」


友達の言葉には頷けなかった。