視線がぶつかって、意味もなく笑い合って、ただそれだけなのに、今の俺たちにはそのことがたまらなく幸せに思える。
離れていた分の時間を取り戻すことは、そんなに難しいことでもないのかもしれないなと思った。
俺と、愛実なら。
お互いの知らない時間、その間にあった出来事を、なんでもない日常のひとこまのように、話すことができる気がした。
高校生のあの頃、放課後の公園で、お互いにその日の学校での出来事を話したように。
一緒にいるこの空間が、こんなにも愛おしくて、居心地がよくて、自分の帰る場所のように思える、穏やかな関係なんだから。
仕事に戻ろうと事務室に戻って謝れば、「どうしたの、二人して泣き笑いしてて…ケンカでもしたの?」と事務のおばちゃんに心配された。
お互いに顔を見合わせれば、確かに子どもがケンカして仲直りしたあとみたいに、すっきりとした笑顔を浮かべている。
「でも、仲直りしたんで。」
愛実がそう答えれば、おばちゃんは心配そうな顔のまま「そう…」と、納得したような、していないような、微妙な顔をした。
「じゃあ、俺は現場戻ります!」
「いってらっしゃい!」
にこにこと可愛い笑顔を浮かべて俺を見送る愛実を見て、おばちゃんは少し驚いた顔になったあとで、「上手くいったのね」と、瞳を潤ませて愛実の頭を撫でた。
なんだよ、佐倉さんだけじゃなくて、おばちゃんにも何か話してかよ、コイツは。
…あとでたっぷり、事情聴取だな。
自分の高校時代のこそばゆい話を、おばちゃんも知っていると思うと、途端に恥ずかしくなってきて、俺は足早に事務所をあっとにした。
外に出れば、照りつける日差しが、とてもまぶしい。
その先に、まぶしく笑う彼女の笑顔を思い浮かべて、午後の一仕事を乗り越える力が漲ってくるのを感じた。
俺も、愛実がいてくれるなら、頑張れるよ、どんなことだって。
【fin】

