君のとなりに

「誰かが必要としてくれなければ、あたしなんていたって意味ないもん!誰かが抱きたいって思ってくれるだけで価値あるじゃん!…身体だけでいいよ、別に。全部愛してほしいなんて…思ってないよ!」

 嘘だ。本当は思ってる。無条件で、愛してほしいと叫んでる。

「だって、みんな離れていくもん。あいつだってそう…だもん。もう、戻ってこない…。」

 彼の幸せを願ってる。嘘じゃない。でも、本当は隣に選んでほしかった気持ちも、なくなっていない。
 
 目を閉じればいつだって、高校生の頃が蘇る。笑顔も、思い出も、重ねた言葉も忘れていない。隣にはいつも君がいて、君の隣には自分がいた。あれが高校時代の全てで、彼にとっても桜にとっても世界は二人だけだった。
 手を離したのは自分なのに、手をもう一度掴もうとしてくれなかった彼に泣きつくのは、筋違いなこともわかってる。

「…人に離れてほしくないなら、そう言わなきゃ無理。」

 低い声が響いたと思ったその瞬間、そっと腕をひかれて収まった先は降谷の腕の中だった。

「…離れてほしくないなら、しがみつけ。」

 耳元で響く声は、違う人のものみたいだ。その声に導かれるように降谷の背中に腕を回した。

「…そういうことだよ。わかってんじゃねーか。お前は物わかりのいいフリをして、相手のためだとか言いながら身を引くくせに、あとで僻む。どうして愛してくれないのかと。そんなの答えは簡単なんだよ。お前がそもそも愛してなどいない。」
「……。」

 桜は涙の滲む顔を降谷の胸にこすりつけた。

「傷つくのが怖くても、お前が手を離したら終わる。その彼も、お前の傍にいたかったのかもしれない。それでも、向こうもまだ若かったんだろ。離された手にどう向き合っていいかわからないまま、いたのかもしれない。俺は相手を知らない。だから憶測でしか物を言えない。だけど、聞いてる感じじゃお前ら若いんだよ。ただの青春ごっこだ、んなもん。」
「…違う!」
「違わねぇよ、青かっただけだ。…すぐは無理でも、会える日は来る。大事な時間を一緒に過ごした奴なんだろ?その時間は嘘じゃない。」

 降谷のその言葉に桜の涙腺は崩壊した。