君のとなりに

「…彼女が、できたんだって。」
「誰に?」
「あたしを、暗闇から救い出してくれた人に。」

 信じることをやめようとした桜に、手を伸ばしてくれた人。

「20歳かそこらで暗闇ってすごいな。」
「…今も多分、前とそんなに変わってないよ。誰のことも信じてない。」
「…でも、泣いただろ、お前。その、暗闇から救い出してくれた人に裏切られた気がしたからだろ、そんなの。」
「…違う、もん。」
「何がどう違う?」

 込み上げる涙をぐっと押さえて、桜は口を開いた。

「…彼は、あたしのせいで高校時代を棒に振った。彼女もできなくて、いつもあたしに尽くしてくれた。優しくしてくれた。泣かせてくれた。これ以上何もいらないってくらい…色んなものを貰いすぎた。…だから、もうあたしのそばにいちゃだめだと、思った。」

 嘘じゃない。これは全部、嘘じゃない。そう思ったのは本当なのに、これが全てでもない。

「…これはあたしの勘違いかもしれないけど、でもあたしは確かにあの頃、彼の特別だと思ってた。彼女じゃなかった。彼氏でもなかった。でも、…あたしの中で彼は特別だった。特別な彼の3年間の全てを、あたしは貰った。」
「それの何が悪い?」
「…彼が幸せになれなかった。」
「お前だけが幸せだったってか?」
「……。」

 あの頃、桜も彼も確かに笑っていた。いつも隣にいたし、いてもくれた。泣きたいときに泣きたいだけ泣かせてくれた。彼の優しさに甘えて、依存し、自分は一体彼に何を残すことができたのだろう。

「…お前、本当にいい加減にしろよ。」
「…何が?」

 ふぅと大きくため息をついて、降谷は口を開いた。

「自分を大事にできないことをだよ。もうやめろ。お前の考え方は不幸に偏りすぎている。」
「…大事になんか、できないよ。だって、大事じゃないんだもん!」

 桜の両目から涙が零れた。我慢の限界だった。