ストックホルム・シンドローム



ベッドに沙奈を横たわらせ、僕は彼女に聞こえないよう、静かにため息をつく。


…嫌われなくてよかった。


沙奈は、沙奈にだけは。


…もう、一生…。


「…愛してるよ、沙奈」


沙奈は少し身体を震わせただけで、僕の本心から出た言葉に返事をしようとはしなかった。


…朝ごはんでも作ろうか。


機嫌がなおるように、僕の指で卵をかき混ぜた美味しいスクランブルエッグと、それを乗せたトースト。


きっと、美味しいはずさ。


僕の愛情が、たっぷりと詰まっているのだから。


沙奈に深いキスをして、彼女の手を取りながら、僕は囁きかける。


「…朝食を作ってくるから、待ってて」


沙奈のしなやかな指に再びキスを落としてから、僕はキッチンへと足を運んだ。


部屋の外に出る瞬間、どこからか聞こえた『誰か、助けて』という声を、流して。




その日から始まったのは、僕と沙奈だけの、穏やかで幸せな日々。


例えば、朝食、昼食、夕食は僕が沙奈の部屋に二人分を運んで一緒に食べる。


お風呂は…さすがに、裸を見られるのは恥ずかしいだろうから、僕は浴室の前で待っているけれど。


たまに見える裸体の影が、僕を刺激したりすることがあった。


…あぁ、幸せだ。


僕は沙奈にありったけの愛を注ぐ――。