赤いエスプレッソをのせて

あえてその『面倒なこと』の内容は訊かないでおいて、素直に返事をした。

人の心のあり方に関して彼女は、素人の私よりもよっぽどよく理解しているんだ。

なにをわざわざ歯向かう必要もない。

そんな、とてつもない津波をひっ被って一気に消沈した心根のまま、肩へと目を移した。

右肩に、千代の姿は、なかった。













けど、左肩に、いた。

溜め息を交え、仲代先生にも聞こえないほど小さな声で、呟く。

「アンタ……幸せもんよ……生きてる私よりもずっと、ずっとね」

もう死んでしまってこの世にはなんの影響もないはずのコイツが、どうしてか信じられないほど、妬ましくて、憎くて仕方なかった。