赤いエスプレッソをのせて

そう、私は、千代のことなんかどうとも思っちゃいないんだ。

千代なんか、いなければよかったとさえ思っているのかもしれない。

千代がいたから私が不幸になったんだ、千代がいたから私はこんなことになったんだ……

そんな風に、千代を私の人生における汚点のように見てしまっている。

謝罪の念なんか、ありゃしない。

そうよ、私の心の、深いところに住んでいる『本性』ってヤツに訊いてみたら、せーせーしたって言うに決まってんだわ。

私って最悪よ。

「自分を『最悪』なんて思わないように、忠告だけはしておきます」

「ぇ――」

突然の言葉に――ちょうどそれを思っていたこともあって、顔を跳ねあげてしまった。

仲代先生は優雅に頬杖を突く。

「私は精神科でも多重人格障害というものについては詳しいんです。もっとも、患者さんに説明する時は学名を使ってますけど、私個人としては個性的自己防衛と認識してますがねぇ。

とりあえず、自分のことを『最悪』と思うのだけはやめてください? あとあと、面倒なことにならずにすみますから」

「は、はい……」