赤いエスプレッソをのせて

いつもの位置にそっと腰かけて、また見慣れた動きでチョコレートの包みを開けた彼女は、私にも一個勧めてから、答えた。

「ええ、まあなんですか、これでも精神科医ですからねぇ。どんな状況にも即座に、臨機応変に対処するのは慣れっこなのよぅ」

この言葉に、はぁ~、と、感嘆の溜め息をついた。

綺麗な上に、なんて有能なんだろうか。ちょっと妬ましいほどだ。

母さん、なんて泣きつかれたら普通、大丈夫、なんて言って慰められるような機転の利く人はいないだろう。

「さ、さすがですね……」

苦笑いっぽいものを浮かべながら、私は返した。そう返すだけで、精一杯だった。

彼女の演技に驚いてとかじゃない。

催眠術にかかっている間に、私が見たもの……そして仲代先生に泣きついた時に思ったことが、ズンとのしかかってくる。