赤いエスプレッソをのせて

「大丈夫、だいじょ~ぶ」

と、緩やかな優しい声が、降ってくる。

「大丈夫よ、今ここに千代はいない。アナタだけだから、大丈夫でしょ……。ね。泣かないでいいのよ、美代。お母さん、ちゃんとそばにいるし、嫌いにもならないわよ」

ほんとに? と訊き返すと、ほんとよ、と返ってくる。

そこに、ほんの少しのしゅんじゅんもなかったことが、嬉しかった。

私自身が母さんと一緒にいる。

それだけであったかくなるのはどうして。

……ううん、もうどうしてでもいい。

嬉しいなら、嬉しいでいいじゃない。

わざわざ根本の部分を突き詰めて、分析して、考え込む必要なんかないんだ。

どれくらい、そうしていたか……ふとした時に、

「――黒井さん?」

と呼び掛けられて、ハッとした。

あんまり気持ちよくて、なんだか眠たくなってしまっていたのだ。

「あっ、は、はいっ」

驚いて顔をあげると、母さんだと思っていたのは、仲代先生だった。

私はいつのまにか椅子じゃなくて床に座り込んでしまっていて、彼女が白衣の中に、しっかりと包み込んでいてくれたのだ。