赤いエスプレッソをのせて

いきなり頬を張られて、私は竦み上がってしまった。

母さんが、私をぶった……?

千代のそばにいつもいた母さんが、千代に悪いことした私をぶった……

私を、嫌いだから、ぶったんだ……!

「ゃ、――やだっ、かっ、母さん……ぃやっ――嫌いには、ならなぃ、で……ご、ごめんなさ……母さ、ん……っ!」

目の前にある服をギュッと掴んで、私は必死だった。

嫌われたくない……嫌われたくない……。

だって私は、母さんのために髪を伸ばしてあげたのよ?

母さんが悲しんだから、私は自分を殺したのよ? 

それなのに……だから、だから……お願いだから嫌いにならないで。

千代のことなんかいいじゃない。

私がお姉ちゃんなんだから、ワガママ言ってもいいじゃない――ち、千代なんてっ。

そうよ、千代なんて千代なんて千代なんて……!

すると母さんは、そっと、私の体を丸々包むように抱き締めてくれた。

胸が痛い。痛くて、ぶつけたくなる。

母さんの胸に、私は息が苦しくなるほど顔を押しつけた。