赤いエスプレッソをのせて

いました、という返事をする前に、私の足は勝手に彼女へと進んでいく。

彼女の手元を見れば、逆さまにしたバケツをそっと引き抜いているところだ。

容器の中から現れた丸い台形は、結構うまくできている。

六歳なのに、器用だなぁと感心して……そして、その肩を叩いた。

「千ぃー代っ」

と、最後に出したのがいつだったかわからないような、そこならぬ天井抜けに明るい声で呼びかける。

その時またどこか遠~くのほうから誰かが、黒井さん待って、と呼んだ気がしたけど――……あれ? 私を黒井さんなんて呼ぶ人、知り合いにはいないよ。

だって私、美代だもん。千代以外の人はみんな、美代って呼ぶもん。

そして、ほんのちょっとしてからこっちを見た千代の顔に、

「っ――」

息を、飲んだ。

真っ赤。

千代の顔が、真っ赤だよ。

なにか水みたいなものをひっ被ったみたいに、赤いものが頬を伝ってて……髪が絡まってて……。

なぁに、この赤いの。お水……? ジュース……?

(違う)

心の中でなにかが弾けるように思った直後、誰かが言ったさっきの言葉が、私の脳髄をブッ刺した。