赤いエスプレッソをのせて





仲代先生の診察は私の場合、大概が催眠両方だ。

過去へ――千代が生きている記憶へと戻ることで彼女と接し、その上で私の中に、妹が死んでしまった悲しみを持たせようということらしい。

そうすれば妹を殺した時も、一回忌でも、それぞれにももっと罪悪感と悲愁の念が出ただろうと。

つまりわかりやすくすれば、私の感情と記憶とを、過去を思い出して『捏造』しようというわけだ。

そして今私は、前も後ろもない浮遊の世界にいた。

「アナタはどこにいますか?」

と、誰かに訊ねられてから初めて、足が地につく。

周りの風景が視界に飛び込んでくる。

いつもの感覚。

「公園です」

答えると、水中にいるかのように、誰かの声がくぐもって聞こえてきた。

いつ頃かを確かめたほうがいいかしら、それより先になにしてるか訊いたほうが……?

とかとかなんとか、いろいろ言っていたのが、ようやく訊ねてくる。

「――妹さんは、そばにいますか?」

普段にないほど素直に、見える風景のなか、千代の姿を探して――数歩先の砂場に、背中を向けているそれを見つけた。