赤いエスプレッソをのせて





『忘れじの

 ゆくすゑまでは

 かたければ

 今日をかぎりの

 命ともがな』



これは新古今集にある儀同三司母という女の人が詠んだものだ。

『人の心って移ろいやすいから、今日アンタと逢って〝忘れない〟って言われた幸せな気持ちのまんま、命を終えたいわ』――そう言っているんだ。

初めて私がコイツを見つけたのは、高校二年の時。

日本史の授業で、一人一句お気に入りの百人一首を探そう、というつまらない時間があって、パラパラとページをめくって止まったところで偶然、出逢ったんだ。

ちょっと衝撃を覚えたもんだ。

高二の私は千代を演じることになかば疲れ始めていたし、彼女の訴えている『人の心』っていうものがなんとなくわかったから、同情してしまったんだ。

私も、千代として誰かに好かれた時、その気持ちのまま死んでしまっておけばよかった――。