赤いエスプレッソをのせて

もう今は、ただ千代のためだけに髪を伸ばしている。

いつか彼女が見えなくなる時まで、私は長い髪のままでいる。

それは、ひょっとしたら私の中では、千代と一緒にいるための、もしくは謝るための無意識な方法かもしれない。

息を整えて、酸欠にくらっとした頭を一新し、気をしっかり持ち直す。

二、三度深く大きく深呼吸すれば……うん、充分。これでまた快速のランニングができる。

「――っ、ぃよっし!!」

最後に自ら活を入れて、一歩大きく、飛ぶように走り出す。

百メートルほど先にはもう、山下病院までもうすぐという目印の、並木通りが見えてきていた。

ラストスパートというわけじゃないけど、自然回す足にも力が入る。

はっ、はっ、はっ、と歯切れのいい息継ぎをしながら走っていると、なんだか昔に戻ったみたいで、意味もなくワクワクできた。

詩を作る以外にも、そういえばこんな楽しみがあったんだなぁ、と思う。